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大阪地方裁判所 昭和47年(ワ)4818号 判決 1974年4月25日

原告 丸善染料薬品株式会社

右訴訟代理人弁護士 鈴木辰行

被告 住吉信用金庫

右訴訟代理人弁護士 村田哲夫

主文

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、原告訴訟代理人は、

一、次のとおりの判決ならびに仮執行の宣言を求め、

(一)、被告は原告に対し金二〇〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和四七年六月二一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

二、その請求の原因として次のとおり述べ、

(一)1、訴外河原誠之は、被告に対し、一口出資金五〇円、四、〇〇〇口分、合計金二〇〇、〇〇〇円の出資をなした。

2、被告は、被告が訴外河原に対して有する債権の弁済を受けるため、同訴外人所有の不動産につき抵当権者として競売の申立をなし(大阪地方裁判所昭和四四年(ケ)第二七八号不動産競売申立事件)、同手続において昭和四四年三月二六日競売代金の交付を受けた。

3、訴外河原は、被告が昭和四四年三月二六日右競売代金の交付を受けたことにより、同日、信用金庫法第一七条第一項一、三、四号所定の脱退事由のいずれかに該当して被告金庫を脱退し、前項1記載の出資金につき払戻請求権を取得した。

4、仮に、右主張が認められないとしても、訴外河原は、前同日、信用金庫法第一七条所定の脱退事由に該当したと同視せられるべきである。

何故なら、信用金庫法第一条によれば、信用金庫の目的は国民大衆のために金融の円滑を図りその貯蓄の増強を図るものとされ、同法第五三条によれば、信用金庫の業務は会員に対する限り金融業務に他ならない。そうすると、信用金庫が国家機関を通じて会員に対する債権の取立を行い当該会員の無資産であることを熟知している場合には、信用金庫の建前からこれに対し融資をなし得ず、当該会員に対し融資をしない限りその点で信用金庫の事業目的は喪失している。これはひいては信用金庫と当該会員との間の相対的な会員資格の喪失である。もしそうでないとすると、当該会員は信用金庫から融資を受けるべき地位を否定されながら、他方信用金庫はその会員の出資金を永久に保持することになり、かかる事態は、信用金庫法第一条の金融の円滑化にもとり、また私権に対する不当な制限である。

現に、被告は、競売代金受領の日以後訴外河原に対し金員貸付その他信用金庫法に定める会員に対する業務を何ら行なっていない。かかる場合には信用金庫法第一七条の類推適用により法定脱退事由が生じたと解すべきである。

(二)  原告は、訴外河原に対し、(1)金額二八七、〇三〇円、振出人兼受取人訴外株式会社日菊好、支払人兼引受人訴外河原誠之、振出日昭和四一年一一月一四日、満期同四二年二月二八日、支払地および振出地大阪市、支払場所訴外株式会社住友銀行駒川町支店、(2)金額三五〇、〇〇〇円、振出日同四一年一一月一日、満期同四二年四月二〇日、他は(1)記載に同じ、の各為替手形の所持人として、右為替手形合計金六三七、〇三〇円およびこれに対する各満期の翌日から完済まで年六分の割合による法定利息の支払を求める訴を提起し(大阪地方裁判所昭和四四年(ワ)第一、九〇〇号為替手形金等請求事件)、該請求を認容する判決を得た。

(三)  原告は、右(二)項記載の判決の執行力ある正本により右為替手形金元本の内金二〇〇、〇〇〇円の弁済を受けるため、右(一)項記載の訴外河原が被告に対して有する出資金払戻請求債権につき債権差押および転付命令を申請し(大阪地方裁判所昭和四四年(ル)第二、六五一号、同年(ヲ)第二、八八三号債権差押および転付命令申請事件)、同四四年九月一一日右債権差押および転付命令が発せられ、同月一二日、被告および訴外河原にそれぞれ送達された。

(四)  原告は、被告に対し、昭和四七年六月一九日付同月二〇日到達の書面で右出資払戻金二〇〇、〇〇〇円の支払を請求した。

(五)  よって、原告は、被告に対し金二〇〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和四七年六月二一日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第二、被告訴訟代理人は、

一、主文同旨の判決を求め、

二、答弁として次のとおり述べ、

(一)  請求原因中、(一)項2記載事実、同(二)項記載事実、同(三)項のうち原告が主張の債権差押および転付命令を申請した事実、同(四)項記載事実を認め、同(一)項3、4の主張は争う。

(二)  被告が訴外河原に対し抵当権に基づいてその所有不動産につき競売の申立をしその代金交付を受けたことは信用金庫法第一七条所定のいずれの脱退事由にも該当せず、また該当すると解釈されるべきでもない。信用金庫会員は右法定脱退事由が生ずると会員たる地位を絶対的に喪失し、同法五三条所定の会員たる地位に基づく権利を一方的に剥奪されるのであるから、右脱退事由に該当することは会員にとって本質的に不利益なことであり、このことから同法第一七条所定の法定脱退事由は制限的列挙と解すべきである。定款によっても同法所定以外の強制的脱退事由を定めることはできない。

(三)  仮に、訴外河原が原告主張の事由により右法定脱退事由に該当するとしても、出資金の払戻請求権はいわば信用金庫という団体の財産の一部の払戻であるから、その価格は信用金庫の事業年度の終りにその財産を評価して決められるもので、その時までは右価格は不確定であり、したがって、これにつき転付命令がなされても券面額の定まらない債権に対しなされたもので無効である。

理由

一、請求原因中、(一)項2記載事実、同(二)項記載事実、同(三)項のうち原告が主張の債権差押および転付命令を申請した事実、同(四)項記載事実は当事者間に争いがなく、同(一)項1記載事実、同(三)項のうち主張の債権差押および転付命令か昭和四四年九月一一日発せられ、同月一二日被告および訴外河原にそれぞれ送達されたことは、被告において明らかに争わないから、これを自白したものとみなすこととする。

二、そこで、被告が訴外河原に対して有する債権の弁済を受けるため同訴外人所有の不動産に抵当権に基づく競売の申立をなし該手続で代金の交付を受けたことが、訴外河原にとり、信用金庫法第一七条第一項一、三、四号のいずれかの法定脱退事由に該当するかにつき検討するに、右一号会員たる資格の喪失は同法第一〇条第一項に会員資格が規定されこれを失うことと解され、三号破産については破産法に、四号除名については信用金庫法第一七条第三、第四項にそれぞれその手続が法定され、右原告主張事実は右各号のいずれにも該当しないことは明らかである。

そして、原告主張の前記事実が会員資格の相対的喪失を生起し信用金庫法第一七条第一項が類推適用されるとの点については、信用金庫の会員は同法第五三条第一項により会員として資金の貸付、手形の割引を受け得るが、その他に、同法第一二条第四二条第四三条等により総会に出席して議決権を行使し信用金庫の業務決定に参加する、あるいは同法第五七条により剰余金につき配当を受けるなど、社団の構成員としての権利を保有しており、また一旦自己所有の不動産が競売に付されても資力の回復により前記金融を受け得る機会は残存しているのであって、原告主張事実をもって訴外河原において被告に対し信用金庫法第一七条第一項が類推適用されるべき会員資格の喪失が生じたと解することはできない。

三、そうすると、訴外河原は未だ被告の会員であって、その脱退による出資金払戻請求債権は生じていず、その余の点を判断するまでもなく、これを目的とした本件転付命令は無効であり、原告は被告に対し訴外河原が被告に対してなした出資金の支払を求めることはできない。

四、よって、原告の被告に対する本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 関野杜滋子)

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